「人を見る力」と聞くと、なんだか相手を値踏みするような、少し冷たいイメージがあるかもしれません。

でも、本当はまったく逆です。
人を見る力とは、相手を深く理解しようとする「優しさ」であり、自分自身を守るための「お守り」でもあるのです。

たとえば、こんな経験はありませんか？

・面接ではすごく感じが良かったのに、一緒に働いてみたらチームの輪を乱す人だった…
・いつも優しい言葉をかけてくれるけれど、陰では違うことを言っているみたい…
・「この人なら信頼できる」と思って打ち明け話をしたら、いつの間にか広まっていた…

こんな経験が続くと、だんだん人を信じるのが怖くなったり、自分の人を見る目に自信がなくなったりしますよね。

自己肯定感も、少しずつ削られていってしまう。

それは、あなたが悪いわけでは決してありません。
私たちは、相手の「表面的なスキル」や「耳障りの良い言葉」に、つい注目してしまいがちだからです。

でも、本当に大切なのは、その人の奥にある「本質」の部分。
その人が何を大切にしていて、どんな時に、どんな表情を見せるのか。

その「本質」に気づけるようになると、

・誰に仕事を任せれば、最高のチームになるかが見えてくる
・心から信頼できるパートナーや友人を見つけられる
・あなたを傷つける人から、そっと距離を置くことができる

こんな風に、あなたの周りの世界が、もっと安心できる、心地よい場所に変わっていきます。

つまり、「人を見る力」を磨くことは、あなたの頑張りを正しく評価してくれる環境を選び、あなたの大切なエネルギーを、本当に大切な人や仕事に注ぐための、最初のステップなのです。

では、どうすれば人の「本質」を見抜けるようになるのでしょうか。

ここでヒントになるのが、安岡正篤が説いた「八観（はっかん）」という考え方です。

なんだか難しそうに聞こえますが、要は「人の本性は、特別な8つの瞬間に表れやすい」という、とてもシンプルな教えです。

彼が何よりも大切にしたのは、知識やスキルといった「才」よりも、その人の人間性、つまり「徳」でした。

「その人が、何を一番大切にしているか」
それこそが、その人の核心だと考えたのです。

特に、良い時と悪い時、順調な時と苦しい時。

そんな両極端な状況に置かれたときにこそ、隠れていた素顔が見えてくるといいます。

一緒に8つの瞬間を、現代の私たちに身近なシーンに置き換えながら見ていきましょう。

人の“本性”が表れる8つの場面

１．うまくいっている時、誰に感謝している？

・（原文：通ずれば其の礼する所を観る）
・プロジェクトが成功した時、「自分一人の手柄だ」とアピールするのか、それとも「みんなのおかげです」と、支えてくれた人に心から感謝を伝えているか。

２．立場が上になった時、誰を大切にする？

・（原文：貴ければ其の進むる所を観る）
・リーダーになった時、自分に都合のいい人ばかり周りに置くのか、それとも自分より優秀な後輩や、意見を言ってくれる人を引き立てようとするか。

３．お金や余裕ができた時、何にお金や時間を使う？

・（原文：富めば其の与うる所を観る）
・ボーナスが出た時、自分のためだけに使うのか、それともお世話になった人にご馳走したり、誰かのためにプレゼントを選んだりするのか。

４．良いアドバイスをもらった時、どうする？

・（原文：聴けば其の行う所を観る）
・先輩から的確なアドバイスをもらった時、「勉強になります！」と言うだけで終わるのか、それとも次の日から早速、行動に移しているか。

５．安定した環境にいる時、何を好む？

・（原文：止れば其の好む所を観る）
・仕事に慣れて余裕ができた時、新しいスキルを学んだり趣味を広げたりするのか、それともただ楽な方へ流されて、惰性で過ごしてしまうのか。

６．慣れてきた頃、どんな言葉を使っている？

・（原文：習えば其の言う所を観る）
・仕事に習熟してきた時、専門用語を並べて威張ったり、人の意見を馬鹿にしたりしていないか。それとも、誰にでも分かるように、謙虚に話しているか。

７．追い詰められた時、何を守ろうとする？

・（原文：窮すれば其の受けざる所を観る）
・納期やノルマに追われた時、つい嘘をついたり、人のせいにしたりしてしまうのか。それとも、どんなに苦しくても「誠実であること」だけは手放さないか。

８．軽く扱われた時、どう振る舞う？

・（原文：賤しければ其のなさざる所を観る）
・理不尽な扱いを受けたり、見下されたりした時、感情的に怒りをぶつけたり、卑屈になったりするのか。それとも、グッとこらえて「しない」でいられるか。

どうでしょう？
あなたの周りの人を思い浮かべてみると、「あの人、確かにこの場面でこうだったな…」と思い当たることがあるかもしれません。

スキルや実績だけでは見えてこない、その人の「器」や「誠実さ」。

この8つの視点を持つだけで、あなたの「人を見る目」は、ぐっと深まっていきます。

ここまで、「人を見る視点」についてお話ししてきました。
でも、実はそれよりもっと大切なことがあります。

それは、「人を見る前に、まず自分の心を整える」ということ。

安岡正篤は、「清らかで静かな水面でなければ、月を正しく映すことはできない」と言いました。
私たちの心が、不安や嫉妬、疲れで波立っていたら、相手の姿をありのままに映し出すことはできないのです。

むしろ、自分の心の「歪み」を相手に投影してしまい、
「あの人はきっと、私のことを悪く思っているに違いない」
「どうせ私なんて、評価されていないんだ」
と、事実とは違う世界を見てしまうことさえあります。

頑張り屋さんで、つい自分を追い込んでしまいがちなあなただからこそ、まずは自分自身の心を優しく整える時間が必要です。

ここでは、そのための2つのヒントをご紹介します。

さて、いよいよ最後の章です。

ここまでの話を、明日からのあなたの毎日に落とし込むための、具体的な3つの習慣をご紹介します。

難しく考えず、「これならできそう」と思うものから、気軽に取り入れてみてください。

ここまで、本当にお疲れ様でした。

「人を見る力」を磨く旅は、いかがでしたか？

結局のところ、人を見る力とは、自分を磨く力と、ほとんど同じ意味なのかもしれません。

自分の心が整っていれば、相手のことも穏やかに見ることができる。
自分の中に確かな軸があれば、他人の評価に振り回されることもない。

あなたが「本質を見抜く目」を育てていくことは、単に人間関係がうまくなる、ということだけではありません。
それは、

誰かを心から信じ、任せる勇気を持つこと。
その人の可能性を見出し、育てていく喜びを知ること。

そして何より、
あなた自身が、自分の人生の主人公として、確かな足取りで未来を選び取っていく力になるのです。

SNSやAIで、誰もが自分を「演出」できる時代だからこそ、見せかけではない「本物」を見抜くあなたのまなざしは、これからますます価値を増していきます。

大丈夫。あなたの内側には、もうその力が眠っています。
今日から、小さな観察と、自分への優しさを、始めてみませんか？

あなたのまなざしが変われば、明日からの世界は、きっと、もっと優しく、もっと豊かに見えてくるはずです。